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高松高等裁判所 平成7年(行コ)2号 判決 1995年12月22日

控訴人

学校法人倉田学園

右代表者理事

倉田キヨヱ

右訴訟代理人弁護士

白川好晴

被控訴人

香川県地方労働委員会

右代表者会長

三浦和夫

右訴訟代理人弁護士

佐藤進

右指定代理人

三野雄一

小川正利

森勉

右参加人

香川県大手前高等(中)学校教職員組合

右代表者執行委員長

中内正嗣

右訴訟代理人弁護士

三野秀富

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は第一審、差戻し前及び差戻し後の控訴審並びに上告審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  香労委昭和五三年(不)第一号不当労働行為救済申立事件(以下「本件救済申立事件」という。)について、被控訴人が控訴人に対してした昭和五七年六月二五日付け救済命令の主文第3項(退職勧奨関係)を取り消す。

3  訴訟費用は第一審、差戻し前及び差戻し後の控訴審並びに上告審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  控訴人の請求の原因

1  被控訴人は、本件救済申立事件について、昭和五七年六月二五日付けで、控訴人に対し、「組合員武田博雅(以下「武田」という。)に対し、組合員である故をもって退職を勧奨することにより、組合の運営に支配介入してはならない。」旨の救済命令(主文第3項、以下「本件救済命令」という。)を発し、その理由は、被控訴人主張(後記二3)のとおりである。

2  しかしながら、控訴人の武田に対する、(1) 昭和五二年一月二〇日、(2) 同年七月八日、(3) 昭和五五年七月一六日、(4) 昭和五六年三月一九日の四回にわたる勧奨退職の真相は、以下のとおりであって、武田が組合員であることとは何ら関係がないから、本件救済命令は違法であり、取消しを免れない。

(一) (1) 昭和五二年一月二〇日、(2) 同年七月八日、(3) 昭和五五年七月一六日の各勧奨退職の真相は、原判決(一審判決、以下同じ。)一一枚目裏五行目から同一三枚目裏九行目までのとおり(ただし、同一一枚目裏一〇行目及び同一二枚目表一二行目の「前記認定した事実」を「本件命令書(後記)の理由『第1 認定した事実』」と改める。)であるから、これを引用する。

(二) 昭和五六年三月一九日の勧奨退職について

右勧奨退職は、武田の本件救済命令申立事件における地労委での証言等などを理由とするものではなく、原判決一三枚目表四行目「右(二)の」から同枚目裏五行目「懲戒処分事由たりうるものである。)。」までの事実、及び昭和五五年七月一六日より少し前の職員朝礼において右記事と同趣旨の発言をした事実を理由とし、その時点より事情の変化がなかったので、新学年度に退職するように再度要請したものである。

二  被控訴人の請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因1項は認める。

2  同2項は否認ないし争う。

3  被控訴人の主張は、原判決添付の別紙「命令書」(以下「本件命令書」という。)九頁九行目から同一〇頁一二行目まで、及び同二一頁二行目から同二三頁一四行目までのとおりであるから、これを引用する。

三  参加人の主張

原判決二〇枚目裏一行目から同二三枚目裏八行目までのとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二一枚目表一一行目「前記認定した事実」を「本件命令書の理由『第1 認定した事実』」と改める。

第三証拠

原審及び差戻し前の当審における書証目録及び証人等目録並びに差戻し後の当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2項並びに被控訴人及び参加人の主張について

1  本件救済命令の基礎となった事実関係は、原判決二五枚目表五行目から同三二枚目表末行目までのとおりであるから、これを引用する。ただし、同二九枚目表二行目末尾に「なお、控訴人が、団交ルールを決めるのが先決であるとの立場を取ったのは、団交が多人数による事前了解なしの面会強要的なものにならないようにする狙いもあった。」を、同三二枚目表八行目「認められる。」の次に「当審における控訴人代表者の供述、並びに」を、それぞれ加える。

2  本件救済命令に関する事実は、次のとおり付加・訂正・削除するほか、原判決五四枚目表六行目から同六一枚目表四行目までのとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決五四枚目表一一行目「<証拠略>」の次に、「<証拠略>」を、同枚目裏一、二行目「<証拠略>」の次に「、当審における控訴人代表者の尋問の結果により成立の認める(証拠略)」を、それぞれ加え、同八行目「原告代表者の本人尋問の結果」を「原審及び当審における控訴人代表者の尋問の結果」と改める。

(二)  原判決五六枚目裏三行目から七行目までを次のとおり改める。

「なお、武田が生徒に対し自己の月給が七万円であると述べたとする件、及び武田が控訴人の教育方針に賛成できない旨表明したとする件につき、同日、倉田理事長は武田に対し問責しなかった。」

(三)  原判決五七枚目表八、九行目「武田が倉田校長の同意を得た上でした」を「武田が学級主任と相談して決めた」と改め、同枚目裏二行目末尾に「なお、武田は、勉強第一主義には反対の見解を持っていたが、早朝に大学進学志望の生徒を集め課外授業をするなど控訴人の進学中心の教育方針に従った行動を取っていた。」を加え、同七行目「建学の精神に反する」を「進学中心の教育方針に反する」と改める。

(四)  原判決五八枚目表九行目「ちなみに、」を削除し、同裏六行目末尾の次に、「もっとも、武田が採用時に提出した履歴書には事実と異なる記載はなかった。」を加える。

(五)  原判決五九枚目表四、五行目「月給が七万円である」を「月給が安く七万円である」と改め、同八行目末尾の次に、「もっとも、武田の初任給は月額(税込・ベースアップ前)約八万九〇〇〇円であったところ(<証拠略>)、武田は、自己の初任給が七万円位と思っていたことがあったので(<証拠略>)、このことを生徒の一部に洩らし、それが倉田理事長の耳に入ったと思われる(本文の推認に反する原審における被控訴人武田本人の供述は採用しない。)。」を加える。

(六)  原判決五九枚目裏一〇行目の次に改行して以下を加える。

「なお、右勧奨退職より少し前の職員朝礼時、武田は、女性事務員の病気等は控訴人の保健衛生設備が十分でなかったからであると控訴人を非難する発言し(ママ)たが、管理職教員等は、右発言が事実に反した短絡的で軽率な内容であると考えつつも反論することなく解散したことがあった。」

(七)  原判決六一枚目表一行目「原告代表者の本人尋問の結果中」を「原審及び当審における控訴人代表者の供述中」と改める。

3  右認定事実1、2に基づいて、本件救済命令の適否を検討する。

(一)  第一回目の昭和五二年一月二〇日の勧奨退職について

右の点に関する前記認定事実2(原判決五四枚目裏一〇行目から同五六枚目裏七行目まで、ただし付加・訂正・削除後のもの、以下の引用も同じ。)によれば、倉田理事長が武田に対し、第一回目の勧奨退職をしたのは、同人の伯父近藤の人柄等を信用して縁故採用したのに、武田がわずか一二、三名の組合に加入し、在宅事情調査のため理事長室に武田を個別に呼び出した際にも、武田が同理事長に対し、参加人組合と同じ考えで住宅事情の待遇改善を求めたため、同理事長がこれを強く嫌悪し、勧奨退職したものと認められる。

(二)  第二回目の昭和五二年七月八日の勧奨退職について

右の点に関する前記認定事実2(原判決五六枚目裏八行目から同五八枚目表八行目まで)によれば、武田は、同年六月三〇日発行予定の学級新聞で、生徒のインタビューに答え、その質問中、学校についての感想を聞かれたのに対し、「方針が少し合わない」「勉強第一主義には反対」という趣旨の答えをし、それがそのまま印刷されたことがあったこと、この件に触れ、倉田理事長は西条市から伯父近藤を控訴人丸亀校に招き、武田の右行為や考えは進学中心の教育方針に反するとして、郷里の愛媛県で就職先を探すように求め、近藤を介して、第二回目の勧奨退職をしたことが明らかである。

しかし、武田は、倉田校長の指導に従い右学級新聞の発行を中止し、インタビュー記事を訂正したことで、その件は一応決着していたこと、武田も実際の行動では進学中心の教育方針に従っていたこと、なお控訴人の学園案内において、教育の一般方針として「品位ある人格の陶冶と、力の教育とを伝統とし、知性情操の両全を目指し、公共の福祉に貢献できる指導的社会人の育成を目的とする。」と公言している(<証拠略>)ことに照らすと、右記事を理由に武田の勧奨退職を求める客観的理由はなかったと解される。

前記認定事実1の諸般の事情も考慮すると、倉田理事長が、特に近藤を学校に呼び寄せてまで武田の勧奨退職を求めたのは、控訴人が近藤の依頼によって武田を採用したにもかかわらず、控訴人の意思に反し、武田が組合に加入し控訴人の進学中心の教育方針を批判していることを嫌悪したためと認めるのが相当である。

(三)  第三回目の昭和五五年七月一六日の勧奨退職について

右の点に関する前記認定事実2(原判決五八枚目表九行目から同五九枚目裏一〇行目まで)によれば、倉田理事長は、武田に対し、昭和五五年七月一六日、<1> 経歴詐称、<2> 昭和五五年四月八日付「職場ニュース」の記事内容、<3> 月給七万円の発言 <4> 武田が近藤に対し今後「控訴人の教育方針が自分に合わない」などと発言しない旨の約束をしていないことの四点を問責し、勧奨退職を行ったので、以下検討する。

<1> 経歴詐称について

武田が大学卒業から控訴人に採用されるまでの間の生活につき、近藤の説明と武田の説明に異なる部分があったが、武田自身が事前に控訴人に提出していた履歴書には経歴詐称の記載がなかったのであるから、武田を経歴詐称として問責するのは相当でない。

<2> 昭和五五年四月八日付「職場ニュース」の記事の内容について

武田は、右職場ニュースで、高松校の海野教諭の解雇の不当性を訴えたが、その中で前記近藤が控訴人から呼び出された件で家族が不安と心配に陥ったことに触れ、「病床にあった私の父は、この事件で非常に苦しみ、その年の暮れに死にました。…こんな年寄りにまで心労をかけて申し訳なく思ったことでした。」(<証拠略>)と記載しているのであって、若干誤解を与える表現ではあるけれども、倉田理事長が近藤を呼び出したために父親が死亡したとまでは記載していない(父親に心労をかけたと述べている。)ことは明らかである。

<3> 月給七万円の発言について

武田が生徒に対し、初任給が月七万円で安い旨の不満を述べていたことは、その内容が不正確で誤解を招く上、教育上の配慮にも欠け遺憾であるが、さりとて右発言が勧奨退職に値する非違行為に該当するとは到底解されない。

<4> 武田が近藤に対し、今後、「控訴人の教育方針が自分に合わない」などと発言しない旨の約束をしていないことについて

倉田理事長は、近藤の手紙の趣旨から、武田が右約束をしていると期待していたが、その約束がなかったというのであるが、右事実だけでは武田を問責できない。

以上検討したところに、前記認定事実1、2に現れた諸事情を総合考慮すると、倉田理事長の右勧奨退職は、武田が組合員であって、組合の職場ニュースで控訴人のした解雇の不当性を訴えたことを嫌悪してなしたものと認められる。

(四)  第四回目の昭和五六年三月一九日の勧奨退職について

控訴人は、右職場ニュースの件を理由とし、その時点より事情の変化がなかったので、新学年度代わりの時期に勧奨退職をした旨主張するが、右職場ニュースの件を理由とすることは、勧奨退職の理由とならないこと前述のとおりであり、前記認定事実1、2(原判決五九枚目裏一一行目から同六〇枚目裏一〇行目まで)によれば、倉田理事長の右勧奨退職は、武田が組合員であって、組合の職場ニュースで控訴人のした解雇の不当性を訴えたことを嫌悪してなしたものと認められる。

4  以上によれば、控訴人及び参加人主張の四回にわたる勧奨退職が、控訴人の職員から武田を排除して参加人の運営を支配しこれに介入しようするもので、参加人に対する不当労働行為(労働組合法七条三号)にあたり、その回数、内容(控訴人の組合嫌悪の姿勢)等に照らし今後も繰り返されるおそれがあると認められる。

そうすると、本件救済命令は相当であり、その取消しを求める控訴人の本訴請求は理由がない。

三  よって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 馬渕勉 裁判官 重吉理美)

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